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山歩きの社会学
雲取山荘(2002.09)
 なぜ大衆登山は現在の隆盛をみたのか・・象徴的にいえば、コンビニと高速道路網の普及がそれを可能にした。これまで山書分野で語られることの少なかった山小屋、登山道、林道など登山の舞台裏を紹介しながら、登山ブームの実態をレポート。

 このページは更に山を楽しむ人にとって、山歩きと山に関わる社会学を具体的に検証し、その実態をレポートしました。

1 登山道の整備について
2 まるで「黒田節」 ?
3 カラスが増えると登山道が良くなる
4 尿処理の問題
5 コンビニと高速道路・新幹線
6 尾瀬でも「不法投棄問題」

7 長蔵小屋に罰金刑
 
 
登山道の整備について
 登山道の整備は、どの程度まで行う必要があるのか。周辺の地形、植生といった自然の条件もあるだろうし、その山へやってくる登山者の数、技量なども考慮しなければならない面もあります。

 中高年の大衆登山者は、ルートのない岸壁や氷壁の登攀に意欲を燃やす先鋭クライマーと同じように見るわけにはいきませんが、かといって余りに整備し過ぎても、登山が持つ、困難の克服という醍醐味を損なうことにもなります。

 山の多い長野県は富山県と比較して、山小屋や地元の間では、「長野県は冷たい」という声が聞かれます。その一方で「大半の登山者が県外の人なのに、なぜ県費を?」と反論する県職員もいます。「それなら観光客は誘致しようというのに、登山者は対象ではないのか」と別の意見が出てきます。とにかく議論好きの長野県であります。

 
まるで「黒田節」
 最近の登山では、旧陸軍やかっての大学山岳部流に「行動中に水は飲むな」といわなくなりました。特に夏山では熱中症や脱水症状にかかりやすいので、それを避けるため「水は飲め、飲め」とまるで黒田節のようです。
 
カラスが増えると登山道が良くなる
 電力会社によると、送電線の見回りは年々強化される方向にあります。その理由は、なんとカラスだそうです。カラスが 鉄塔の碍子をまたいで巣をかけることがあり、その巣作りに木の枝やワラだけでなく、最近ではクリーニング店が使っている細い針金のハンガーをくわえて来るそうです。

 これが困りもので、風に吹かれるなどしてずり落ちれば、送電線 をショートさせ、停電の原因になりかねません。ひと度、送電線で停電が引き起こされれば、その社会的影響は甚大であります。という次第で、電力会社は送電線を定期的に点検して回ることになります。

 そのためには、巡視路の維持と整備が欠かせません。ジュラルミン製のはしご、硬質ゴムを使用した階段、その他にも工夫された用材を随所に使った道は、自然歩道とは比べ物にならないくらい、歩きやすいのです。

 「風が吹けば桶屋がもうかる」の現代版、「カラスが増えると登山道はよくなる」ということになります。送電線は地図と照合すれば、現在位置を確認するのに極めて有力な手がかりとなり、分かりにくい里山やヤブ山を歩くときには、もってこいの目標になります。各鉄塔のナンバー標識も正確であります。

尿処理の問題
 登山者が用を足すことによる汚れは、昔から潜在的な問題であったでしょうが、百名山登山ブーム、中高年登山ブームで、富士山や槍ヶ岳、穂高岳に代表される人気の山へ登山者が集中することもあって、美観や臭いなどの問題に加えて、もっと深刻な水質汚染の問題が潜在化してきました。

 各山小屋の話やトイレの実状から判断して、登山者一人の平均屎尿は1リットル前後と考えられます。ということは、年に2万人の登山客が泊まる小屋は、約20トンの屎尿処理をしなければならないということになります。時期によっては、テント組 と合わせて1日3千人も滞留する穂高連峰の涸沢では、1日だけで3トンも排出される計算になります。

 夏の富士山は、さらに大量であります。富士山の登山者は、年間でざっと30万 人といわれており、山梨県観光課がカウントしたところ、一番人気のある富士吉田口コースでは、平成12年の七、八月の二カ月で十六万六千人の登山者を記録しました。

 雪が消えると、富士山は水のない山になり。日本でも最も高い山だけに、その気象条件も厳しく、一般登山者の入山は、夏山開きで山小屋が開く七、八月の二カ月に集中すします。山梨県側だけで約三十軒ある山小屋(売店)は、シーズンが終わると早々に小屋をたたむ準備に入ります。その中で大きな比重を占める仕事が、ひと夏で溜まった屎尿の”放流”で あります。

 ためて置いた雨水や、噴火口の万年雪の融雪から汲み上げた水を使って、それぞれの小屋がトイレ掃除をします。その 結果、山肌にはトイレットペーパーが混じった、幾筋もの帯ができ、薬剤と屎尿の混合した猛烈な臭気が漂うことになります 。 一部に「富士山を世界遺産の一つに」という声も聞こえますが、こうした実情を目のあたりにすると、「?」マークがつくと思うのですが。「九月の富士山には登りたくない」という山岳通もいるくらいです。 

 そうした富士山の実情を見かねて、平成十年「山のトイレ・シンポジウム」が山梨・甲府市で開かれました。同じ趣旨のシン ポジウムが翌十一年、松本市で信濃毎日新聞社の主催により、山小屋経営者や行政機関の代表者たちを幅広く集めて開催されました。
 この「待ったなし、北アのし尿処理」と題するキャンペーンの反応は大きかったようです。

 環境庁は早速、平成十一年度補正予算で山のトイレ改善補助として一億円を計上し、長野県五軒、富山県三軒、岐阜県、山梨県各1軒の山小屋がその対象となりました。それぞれの山小屋は、翌十二年中にはトイレの改善を終えました。環境庁はその後も、ほぼ同じペースで山のトイレの改善を進める方針でいます。

 
コンビニと高速道路・新幹線
 昨今の百名山巡りや中高年の登山ブームは、コンビニと高速道路・新幹線などの普及が”生みの親"である、といっても過言ではありません。もちろん、仕事を持つ登山愛好家、中でも会社勤めの登山者にとって、週二日制時代の到来も追い風にはなったでしょう。交通の便の悪い遠隔地の山々ともなると、10年ほど前までは、この程度の休みではどうにも対処できない山が多かったのです。

 ところが、全国的な高速道路や新幹線整備が、こうした登山事情を激変させた。一夜にして6〜7百キロの移動も可能になりました。登山用具とザックに準備さえしておけば、金曜日の仕事明けと同時に、気が向いたときに山へでかけられるようになったのです。

 目的地のインター、あるいは駅を下りれば、そこにはコンビニエンスストアがあります。しかも年中無休、何時でも開いています。昔、登山をしたことのある人なら経験があるでしょうが、食べ物が腐敗しやすい夏場の食料計画の苦労は、それは大変なものでした。

 しかし、山では水に次いで重要なその食料が、極端にいえば山に取りつく場所で手に入れられるのです。おむすびにパン、パック詰めの弁当やうどんなど、何でも売っています。テントや小屋の連泊で、ちょっとバリエーションがほしいというぜいたくを望むなら、刺身や豆腐のパック詰めを山で食べることもできます。

 着替えのアンダーウェアーや軍手をうっかり忘れて、空身に近い状態で家を飛び出しても、山行に必要なものは最低限そろえられるのです。
 便利なような、少しこわいような登山環境になってきました。

                    菊池 俊朗著「山の社会学」文春新書 2001年6月20日  

     

6 尾瀬でも「不法投棄問題」
 今年5月14日から3日間、福島県警が行った現場検証の結果、10トンにのぼる大量の産業廃棄物の不法投棄が、日光国立公園の尾瀬で確認されました。捨てたのは、その貴重な湿原の自然保護に貢献してきたはずの山小屋「長蔵小屋」(平野太郎社長)でした。

 福島県警は近く従業員と法人としての小屋を廃棄物処理法違反容疑で書類送検する方針です。1972年以来の「ごみ持ち帰り運動」に代表される“環境先進地”での不祥事。最大の責任は長蔵小屋にあるとはいえ、これほどの事態を見逃してきた国立公園行政にも問題はなかったのでようか。

 その成り行きが注目されます


読売新聞 2002年7月1日付 朝刊 (福島支局 森広影、飯山大輔、地方部 十時武士

7 「長蔵小屋」に罰金刑 
          福島地裁会津若松支部判決

尾瀬にゴミ7トン不法投棄

 日光国立公園・尾瀬の山「長蔵小屋」福島県檜枝岐村)の不法投棄事件で、廃棄物処理法違反の罪に問われた有限会社「長蔵小屋」(平野太郎社長)と同社員の入沢祐明被告(64)(群馬県片品村)、元社員の鉢金清治被告(57)(同県高崎市)に対する判決公判が二日、福島地裁会津若松支部であった。

 内田博久裁判長は、起訴された二件の埋設行為のうち、別館解体に伴って生じたコンクリート片などの建築廃材約六・九トンを別館跡地に埋めた行為を不法投棄と認め、同社に罰金百二十万円(求刑・罰金二百万円)、入沢、鉢金両被告に懲役五月・執行猶予二年(同・懲役六月)を言い渡した。一方、圧縮した空き缶やガラスくずなど約〇・六トンを新別館玄関前に埋めた行為については、「テラスの土台として二次利用されたものであり、産業廃棄物にはあたらない」として無罪とした。

 内田裁判長は判決理由で、「現場は国立公園の特別地域。同社は尾瀬の自然保護運動を指導してきた象徴的存在で、投棄は背信的行為で、社会的影響も多大」と厳しく指摘した。 判決後、会見した平野社長(35)」は「申し訳なく思っている」と述べた。今後の対応については「判決文を読んで検討したい」と答えた。

尾瀬愛した元社員告発
 この日の判決について、青木進・財団法人日本生態系協会環境政策室長は「自然公園といえども現在は過度のレクレーションで自然と共存できなくなっており、今回の事件はそれを象徴している」と指摘する。その上で「自販機を置き、水も使い放題などと同じサービスを提供し、観光客に迎合する必要はない。自然公園内の観光は、豊かな自然が維持されて初めて成り立つことをあらためて認識すべきだ」と話す。

 今回の不法投棄事件が発覚するきっかけは、尾瀬の自然を愛した一人の元社員による告発だった。元社員は六十歳で長蔵小屋を退職したのを機に、一昨年一月、尾瀬の保護運動に取り組む奥利根自然センター(群馬県月夜野町)関係者に事情を説明。環境省が入山者らからの目撃情報を受けて調査中だったこともあり、事件が明るみに出た。元社員は判決を得たず、昨年五月に他界している。

 山仲間としてこの元社員二十年近い親交があったというう千葉輿我孫子市の保険代理業・・鈴木隆秀さん(64)は、「環境保全に取り組むべき人たちが長年にわたり犯した犯罪に対し、判決は軽い感じ。彼も同じ気持ちだと思う」と話した。

                                            読売新聞 2004年2月3日付   朝刊
2006年3月1日から
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